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MIX SEASONS LP MIX SEASONS LP 発売日 2019年12月18日 レーベル ポニーキャニオン デイリー最高順位 4位(2019年12月18日) 週間最高順位 4位(2019年12月24日) 月間最高順位 11位(2019年12月) 年間最高順位 34位(2020年) 初動売上 11412 累計売上 15638 収録内容 曲名 タイアップ 視聴 1 Growing Pain A3! キャラソン 2 放課後ミッドナイト 3 不屈のチャント 4 ソラチカ 5 彗星とサーカス王 6 MagiClap 7 未完成な空で 8 Professional 9 桔梗の花 10 宵の三日月 11 SCARLET GAME 12 Qと銃 ランキング 週 月日 順位 変動 週/月間枚数 累計枚数 1 12/24 4 新 11412 11412 2 12/31 10 ↓ 1378 12790 3 20/1/7 359 13149 2019年12月 11 新 13149 13149 4 1/14 ↓ 282 13431 5 1/21 11 ↑ 531 13962 6 1/28 14 ↓ 438 14400 7 2/4 373 14773 2020年1月 20 ↓ 1624 14773 8 2/11 ↓ 220 14993 9 6/23 4 ↓ 443 15436 10 6/30 202 15638 関連CD ウラオモテTEACHER
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ミュージカル「RENT」よりSeasons of love 合唱形式でSeason of loveを歌う 進行状況 下記の歌詞で確定 音源提出中 参加者 男声パート 『す』(仮) ◆zWD74BM92E ずっと俺の合唱団 ◆FlH7Fxj0oM コドモゴコロ ◆RnfOaQJRjg シャオ ◆obMnWi5awM 女声パート ここなっつ◆coco72oO.Q あさみ♪ ◆Asami.MMIE LR ◆QGwXN0YoV2 井戸 ◆P6rBQWtf4. MIDI作成 ここなっつ 音声編集 コドモゴコロ 動画編集 あさみ♪ 使用音源 http //hisazin-up.dyndns.org/up/src/60438.zip 参考音源 ミュージカル名場面集-06【RENTより】 歌詞 ※(男声のみ)【女声のみ】のかっこで分けてます。わからない方はスレまで~。 Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes Five hundred twenty-five thousand moments so dear Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes How do you measure measure a year? In daylights In sunsets In midnights In cups of coffee In inches In miles In laughter In strife In Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes How do you measure a year in the life? How aboutlove? How aboutlove? How aboutlove? Measure in love Seasons of love (Seasons of)love 【Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes Five hundred twenty-five thousand Journeys to plan Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes How do you measure the life Of a woman or a man?】 (In truths that she learned Or in times that he cried In bridges he burned Or the way that she died) It s time now - to sing out Tho the story never ends Let s celebrate Remember a year in the life of friends Remember the love Remember the love Remember the love Measure in love Seasons of love ... (Seasons of) love 完成品 【コラボ】Seasons of Love【RENT】 コメント欄 名前 コメント
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Seasons(楽) 曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FA(SA) その他 Seasons TOMOSUKE feat. Crystal Paloa X3 楽5 168 169 / 13 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 32 28 0 32 0 楽譜面(5) / 踊譜面(8) / 激譜面(12) / 鬼譜面(-) 属性 縦連 譜面 http //eba502.web.fc2.com/fumen/ddr/x3/seasons_8b.html 譜面動画 https //www.youtube.com/watch?v=2Uxs6K-ImmU (x?.?, NOTE) プレイ動画 http //www.youtube.com/watch?v=epwnokCtJwE (x1.5, NOTE, 4 39~) 解説 4分はあったとしても縦連主体で、上位譜面のような踏み辛い配置は殆ど無い。それなりに早いBPMに付いていけるなら逆詐称 -- 名無しさん (2017-01-01 10 51 29) 名前 コメント コメント(私的なことや感想はこちら) 名前 コメント
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Seasons(踊) 曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FA(SA) その他 Seasons TOMOSUKE feat. Crystal Paloa X3 踊8 168 237 / 24 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 45 41 10 59 8 楽譜面(5) / 踊譜面(8) / 激譜面(12) / 鬼譜面(-) 属性 交互難、リズム難 譜面 http //eba502.web.fc2.com/fumen/ddr/x3/seasons_8t.html 譜面動画 https //www.youtube.com/watch?v=2Uxs6K-ImmU (x?.?, NOTE) プレイ動画 http //www.youtube.com/watch?v=epwnokCtJwE#t=135 (x1.5, NOTE, 2 15~) 解説 渡りは4分含めてほぼ無く8分も控えめだが、妙に交互難かつリズム難。独特な譜面で思った以上に苦戦するかもしれない -- 名無しさん (2015-04-05 23 43 23) 名前 コメント コメント(私的なことや感想はこちら) 良曲良譜面だった -- 名無しさん (2022-03-04 23 45 48) 名前 コメント
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『4seasons』 冬/きれいな感情(第六話)より続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §11 「ほんっとすげーんだぜちびっ子。ふわって身体が浮いたかと思うと、もう横になってんだっ」 「はいはい、よかったねみさちゃん」 「おうっ。ってかあれどーやんだ? 今度私にも教えろよー」 「いやいや、そんなすぐには無理だから。ってかあれ実は秘伝なのだよ」 「ひ、秘伝! それってあれか、髭のじいちゃんが持ってくる巻物に書いてあんだよな! すげー!」 「ぷぇっ、そんなわけないじゃん。みさきち、漫画とかアニメの見過ぎー」 「お前が云うなお前が!」 思わず私は突っ込んで、そうしてこなたが嬉しそうな顔をする。 いつも通りのやりとり、いつも通りの下校風景。 バス亭へと向かいながら、私たちは表面上いつもとなにも変わらないやりとりを繰り広げていた。 みさおが空気が読めないやつで助かった。心の底からそう思う。 格闘技のことでやたらと絡んではすげーすげーと連発するみさおのことを、こなたも最初のうちは鬱陶しがっていた。けれどなんだかんだ云って本人も満更でもないらしく、気がついたらこなたも楽しそうに応じているのだった。 「――今日もかがみさんのお宅にお邪魔しましょうか?」 小声でみゆきが囁いた。 丁度よくみさおとあやのがこなたの相手をしてくれていて、私とつかさとみゆきで固まることができていた。その点もみさおに感謝したいところなのだった。 「……ううん、必要ないと思う。またすぐ明日会うでしょ?」 「それはそうなのですが……」 「お姉ちゃん、何か考えがあるの?」 「考えってほどのことでもないけど、帰ったらこなたの家に行ってみようかって思ってるのよ」 「そうですか、ではかがみさんにお任せします。……でも、後で必ず電話下さいね」 「うん、勿論」 私はうなずいて、ちらりとこなたたちの方に視線を向ける。こちらにはまるで注目していない様子で、なぜかこなたとみさおはプロレスみたいに手と手を組んで押し合っていた。 「――こんな時期で、ある意味よかったのかもしれませんね」 そんな二人を眺めながら、みゆきがぽつりと呟いた。 「え?」 「受験目前ですし、休み明けには今日の出来事も風化してしまっているでしょうから」 「――そうね」 進学校である陵桜の生徒たちのこと、自分の受験のことで精一杯で、同学年の誰かが誰かと喧嘩したなんてことは皆すぐに忘れてしまうだろう。 「ねっ、せめてさ。明日は楽しいクリスマスにしようね。色んな事があっても、楽しく笑えたらきっと大丈夫なはずだよ!」 私たちの手を取って、つかさはにっこりと笑った。 私もみゆきも、その瞬間虚を突かれたようにはっと息を飲んだ。 そうしてつかさを見つめるみゆきの表情は、いつも通りのぽやんとした物に変わっていく。そのときになって初めて、私はみゆきが近頃ずっと緊張していたことに気がついた。 「……そうですね。本当に、そうですね」 「ふふ、あんたのケーキ、すっごく期待してるからね」 「うん、がんばるよ~」 つかさが気合いを入れるように拳を握りしめたとき、後ろからこなたが叫ぶ声が聞こえてきた。 「あー、バス、バス! バスきちゃってるよ!」 みると、いま正に曲がり角を曲がってバスがやってくるところだった。 「あ、やばっ、急ごう」 そう云って、私たちは駆け出した。 走り出すと、冷たい風が顔に当たって身を切られるような寒さを感じる。体操着や上履きで膨らんだ荷物に難儀しながら、私たちは懸命に走った。 びゅん。と後ろからつむじ風のような勢いで追い越していくのは、こなたとみさおの二人だった。 「わ、わー、ふたりとも、はやーい」 見る間に私たちを引き離して、二人はぐんぐんと加速していく。 けれどさすがに本職とは比ぶべくもなくて、こなたもすぐにみさおから引き離されてしまった。「ぬおー」なんて、こなたが叫ぶ声が聞こえてくる。何をむきになっているんだあいつは。ちらとそんなことを思ったけれど、私はなんとなくその理由がわかる気がしていた。 青い長髪が風にたなびいて、こなたの背中で踊っている。小さな身体を懸命に動かして、前に前に進んでいく。 目的がただのバス亭であることなんて、きっと関係がない。 スポーツ推薦が決まっているみさおに勝てるわけがないことなんて、全然関係がない。 そんなこなたを突き動かしている感情は。 そんなこなたを見て私の胸にわき上がる感情は。 きっと今の私たちだけが感じられる何かだろうと、私は思った。 荒い息を吐きながら、みゆきに遅れてバスのステップに足をかける。みさおは胸を張って勝ち誇り、こなたの頭を押さえつけながらニヤニヤと笑っていた。つかさとあやのが手を取り合いながら駆けてきて、やっと全員がバスに乗り込むことができた。 そんな私たちを見て、初老の運転手さんが眩しそうに笑っているのだった。 §12 窓の外で、ツグミが飛んでいた。 群れをなす鳥たちは、あの日死んでいた一羽のツグミなど素知らぬ風でただ空を飛んでいる。 そう、あのツグミは死んでしまったけれど。失われたものを取り返すことはもうできないけれど。 鳥たちは、また春になれば故郷に帰り、巣作りをして新たな子を産んで、来年の冬には再びここに戻ってくる。 きっとそういうものなのだろうと思う。そういうサイクルの中、私たちは生きているのだろうと思う。 持ち物を確認して部屋を出ようとしたそのとき、ケータイが鳴って私に着信を知らせた。みると、みさおからの電話がかかっていた。 「おーっす、どうしたのよ」 『うぃー。いや、どうしたじゃねーだろ』 「うん?」 『ちびっ子のことだよ。それこそどうしたんだよ。あいつ、いくら頭に血が昇っても他人に暴力ふるうような奴じゃねぇだろ。このごろずっとおかしかったじゃんか、何があったんだ』 その指摘に、思わずケータイを取り落としそうになる。 ――こいつ、気づいていたのか。 頭が真っ白になって、咄嗟には言葉がでてこなかった。 そう考えると、私が“空気を読めない発言”だと思っていたあれこれも、まるで違った意味を帯びてくる。 投げ技にひたすら関心してみせたり、運動神経を褒め称えたり、駆けっこで完勝して勝ち誇ったりしたことも、こなたが感じているはずの罪悪感を少しでも軽減しようとしてのことだったのかもしれない。 実際、始めのうちは沈みがちだったこなたも、みさおと話しているうちに段々といつもの元気を取り戻していたのだ。 みさおもみさおなりに、精一杯こなたのことを元気づけようとしていたのだろう。何にも気づかないふりをして、さりげなく周りを気遣って、どこまでも明るく振る舞って。 ――それを私は、ただ無邪気に『みさおは元気だな』なんて受け止めていた。 「すまんっ!」 恥ずかしさに、顔が熱くなっていく。みさおの思いに気づかなかった自分が情けなくて、頭を下げて謝った。こなたがみていたら、また電話でジェスチャーをしても伝わらないだのなんだのと云ってくるだろうけれど、それが伝わるかどうかは問題ではない。ただ自分の気持ちの表れなのだ。 『おお? なんでかがみが謝ってんだ?』 「いや、あんたが気づいてるとは思ってなかったのよ。マジですまん。あんたのことちょっと軽くみてたのかもしれない」 『おーおー、かがみもやっと気づいたか。な? 私ってば気遣いできるやつだろ? ニヘヘ、でも私に惚れちゃだめだぜー』 「云ってろよ。ってか調子にのんな!」 『ちぇっ、デレは一瞬でやんの』 「あんたはこなたかよ。……ねぇ、事情、説明した方がいい?」 『うーん、もしかして込み入ってんのか? なんか理由があって私たちには云いづらいとか』 ――みさおは、もう大人だ。 私はいつまでも中学校時代のみさおのことを引きずっていて、いつまでたっても子供みたいなやつだなんて思っていたけれど。私やつかさが少しずつ成長していったように、こいつだってもう高校三年生なのだ、成長しているに決まっている。 ――云った方が良いのだろうか。私の事情を。 みさおとあやのに伝えていなかったのは、何も蚊帳の外に置こうとしていたわけじゃない。みさおは他人に隠し事ができる人間じゃないと思っていたから、云わなかっただけなのだ。あやのには伝えられるとしても、あやのだってみさおに隠し事をするのは辛いだろう。 「込み入ってはいるし、理由があって云いづらいのもその通りだけど。あんたが自分の胸にしまっておけるなら説明するわよ」 『うへぇ。そんな重い話なん? うーん、性格的に私は隠し事できねっからなぁ……。いつか云えるようになったら教えてくれ』 「――そっか、わかった」 『とにかくさ、私だって普段のだらだらしたあいつのこと、結構好きなんだぜ。だから、頼むかんな』 そう云って、みさおは電話を切った。 私は、沈黙したケータイを眺めながらため息をつく。改めて人という存在の凄さを思い知った気がしていた。その人が普段見せている表情なんて氷山の一角のようなもので、一人一人がその奥に深い思いを抱き、一人一人が別の人生を送っているのだ。 その不思議さに、少しだけ眩暈がした。 ※ ※ ※ つかさが焼いてくれたクッキーを持って、自転車を漕ぐ。 もう通い慣れた道だ。目を瞑ってでも辿り着ける道だ。 けれど行き交う人々は、みなどこかそれまでと違って見えていた。一人一人が背景ではなく、風景でもなく、皆私と同じように色々な思いを抱きながら生きている人間なのだと、そう思うようになっていた。 曲がり角を曲がれば、泉家はもうすぐそこ。それは曇天を背景に少しだけ懐かしい佇まいで聳えている三階建ての建物だ。その中にこなたがいる。その中にこなたの十八年がつまっている。 立ち並ぶ家並の中、こなたが住むその建物は私にとってどこまでも特別な物に感じられていた。 「――いらっしゃい」 「おーっすっ」 なんだか不思議そうな顔をしているこなたに、私はいつも通りの挨拶をする。玄関に現れたこなたは、珍しく普通の格好をしていた。ファーのポンポンがついた生成のセーターに、フェミニンなギャザーフレアスカート。そこから覗く足をオフホワイトのカラータイツが覆っていて、まるでお姫様みたいに可愛らしかった。 いつもこなたはパジャマに丹前のずぼらモードですごしているのに、一体どういう風の吹き回しなのだろう。 「どうしたのよそんな格好しちゃって。どこか出かけてたの?」 「別に。ただ着合わせてみただけだよ」 なぜか不機嫌そうにそう云って、ぷいと先に部屋に戻ってしまうこなただった。 「あ、ちょっと待ってよ」 慌ててブーツを脱いでいると、部屋の中から「勝手に上がってきてよー」と声がした。 なんなんだ一体。そんなことを思いながら部屋に入ると、後ろを向いて椅子にまたがったこなたが、くるくると回転椅子を回して遊んでいた。机の上には参考書やノートが広がっていて、ちゃんとさっきまで勉強していたようだった。 「――あのさ、こなた」 「んー?」 「頼むから、スカートで足広げないでくれ」 「えー。いいじゃん減るもんじゃないし」 「いや、減るだろ。せっかく可愛いコーデなのに、隙だらけじゃ魅力半減だわよ」 「んー、そういうもんかな」 そう云ってこなたはまたがっていた足を上げ、正面座りになってくるりとこちらに向き直った。 「可愛い格好は好きだけど。見せちゃいけないとか、おしとやかじゃないといけないとか、面倒くさいから嫌い」 「面倒くさいってなあ……。あんたは本当昔から恥じらいってものがないわよね」 そんなことを云いながら、私はバッグから勉強道具を取り出して座卓に拡げていった。 「だってそういうのよくわかんないんだもん」 こなたはそう答えて、私がすることを興味深そうに眺めていた。 「あ、つかさがクッキー焼いてくれたから一緒に食べよう」 「あ、うん。じゃお茶淹れるけど……かがみ?」 「ん?」 「いや、何しにきたの?」 「云わなかったっけ?」 「聞いたけど、よくわかんなかった」 「勉強会に来たんじゃないの」 「わたしとかがみ二人だけで?」 「……変かな?」 こたなはしばらく宙を見上げながら何事か考えている風で、しばらくしてぼそりと口を開いた。 「や、別にそんな変でもない、のかな?」 「だろう?」 「うん。なんか釈然としないけど……」 ――お茶淹れてくるね。 そう云って、こなたは部屋を出て行った。タンタンと階段を昇る跫音が聞こえてくる。この家のキッチンは二階にあるのだ。 取り残された部屋で一人、私はなんとなく周囲を見渡した。壁紙の色、家具の配置、集められた漫画やフィギュア。そういったものの全てにこなたの思いが詰まっている気がした。こなたが考えた結果この部屋のあれこれはできあがっていて、ならばここはこなたの心の中そのものだ。 ベッドの脇、机との間に前は見かけなかったカラーボックスが置かれていて、入りきらなかった本やCDが周囲にまで溢れている。ああ、あそこが前に云っていた未読用本棚か、確かに山のようになってるな。私はそう思って、一週間ほど前の楽しかったあの日を思い出していた。 「おまたせ」 カチャリとドアを開けて、紅茶セットを載せたお盆を持ったこなたが戻ってくる。 お礼を云って、がさごそとクッキーの袋を開けて小皿に取り分けて。さあ始めるかと云うときにこなたが云った。 「わたし、こっちでもいい?」 さっきまで勉強をしていたのだろう、机の方を指して云った。 「ああ、いいんじゃない。わざわざ動かすこともないだろうし」 そんなこんなで、二人で別々に勉強を進めていく、奇妙な勉強会が始まった。 さらさらと流れるシャーペンの音。ぎしと鳴る椅子の背もたれ。ぶつぶつと呟く声。頭を抱えながら発するうなり声。 古今東西受験生が勉強中立てる音なんてそのようなもので。私とこなたもそれぞれそんな音を立てながら、穏やかな時間が流れていく。 こなたもちゃんと身を入れているようで、小さな背中が手の動きに合わせて小刻みに揺れている。なんだかそれが可愛くて、なんとなく顔を上げてその様子が眼に入ると、私はつい微笑を浮かべてしまうのだ。 何かつまらないミスでもしたのだろう。小声で「あー」と呟いてがしがしと頭を掻くこなたのことを、頬杖を突きながら眺めていた。と、ちらりと振り返ったこなたと眼があった。私が見ていることに気がつくと、こなたは面食らったように驚いて、そうして頬を紅く染め上げた。 「な、なんで見てんのさ」 「別に。たまたま目に入っちゃっただけよ」 「じゃ、なんでそんなニヤニヤしてんの?」 「いやー、あんたって何か変な小動物みたいで面白いわよね」 「あれ? もしかしてわたし、かがみに弄られてる?」 「たまにはそういうのもいいでしょ」 「よくないよ。調子くるうなあ」 そう云って、ふて腐れたみたいな態度で机の上の参考書を取り上げてこっちに来ると、どすんと乱暴な動作で座りながら座卓の上にそれを拡げだした。 「ね、ここよくわかんないんだけど」 「マグナ・カルタ?」 「そそ、法の支配だか法治主義だかの礎になったみたいな話だけど、その二つの違いがよくわかんない」 「んー。法治主義っていったらローマ法がもとになった大陸法のことで、法律の内容は問わずにただ法に触れたからという理由で捌いていく主義で、法の支配は英米法の理念にある“正しい”法を追求していく考え方のことよ」 「……わかんない。ってか法治主義って悪いことなの?」 「や、良い悪いじゃないだろ。ただ形式的に適用されるから、不当に市民の自由を制限できる可能性が出てくるわね」 「ええ? じゃ、法治主義の日本は駄目ってことじゃん」 「だから、駄目とか駄目じゃないの話じゃないのよ。そりゃ私はマイノリティを平気でスポイルできる形式的法治主義は否定するけど、それが絶対的にいいことだなんて思わん。ってか日本国憲法は法の支配を理念にしてるぞ?」 「うそー。日本って法治主義の法治国家なんじゃないの?」 「形式的法治主義と実質的法治主義は違う」 私がそう云うと、こなたの中で何かが切れたようで、突然立ち上がって叫びだした。 「なんで違うのさ! 実質的法治主義ってもう法の支配と同じなんじゃん、なんで名前違うの!」 「私に切れんな! 成立過程が違っていれば呼び方も違うもんだろ。いいから座ってろ」 「もー。大体さ、このジョン欠地王ってのが悪いよね。もっと強気で出ればマグナ・カルタなんて突きつけられなかったんじゃないの?」 「それはそれで、今の社会がもっと不自由だったかもしれないだろ。ってかあんたは覚えたくなくて適当云ってるだけでしょうが」 「ばれたか」 ぺろりと舌を出してから、こなたは言葉を継いでいく。 「まあ実際、ヘタレキャラの存在も重要なんだよねー。欠地王なんてかなりいいキャラ立ちしてるもん」 「あんたはまたそんな見方かよ。まあでも、そんなんでも覚えられるならいいかもしれないわね」 「うむう。エドワード黒太子とか、CVは絶対小野大輔だよね。ナルキャラ、ナルキャラ」 「しらんわ」 「獅子心王とか笑っちゃうくらい格好よすぎじゃん。あんたはどこのカシュー陛下だってーの。っていうかさ、このあだ名つけたの絶対わたしたちの同類だよね。ライオン・ハーテッドとかありえない」 「……そうかもな」 「カップリングはリチャード×サラディンで決まりだよね。敵味方に分かれた禁断の恋。お互いの信仰が二人を引き裂くのだー」 「はいはい」 「で、フィリップ二世オーギュストがリチャードに岡惚れしてんの。こいつは絶対ツンデレ」 「いいけど、頼むからそれは答案に書かないでくれ」 ――実際、獅子心王と呼ばれたリチャード一世は同性愛者と噂され、フィリップ二世との関係も疑われていたのだ。 そんなこと、気軽に云ってしまってもよかったのかもしれないけれど、なぜだか私はそれを云い出せずに飲み込んだ。気楽にネタにできるほど、私にとって同性愛は縁遠い物ではなかったのだ。 そうしてふと、部屋に沈黙が訪れた。こなたはそのまま座卓の前に座って参考書に目を落としていた。パラリとページをめくる音が聞こえてくる。しばらくして、思い出したようにこなたがぽつりと云った。 「――聞かないの?」 「……何をよ」 「今日のこととか、こないだ太宮行った時のこととか、色々だよ」 こなたは顔を伏せたままだった。だから、こなたがどういう表情をしているか、私にはわからない。 「聞いたら、教えてくれるの?」 ゆっくりと穏やかに、できる限り優しく聞こえるように、私はこなたに問いかけた。参考書に眼を落としたまま、こなたは動きを止めている。文章を読んでいるふりをしているけれど、その実文字なんて目に入っていないことは明白だ。 たっぷり十秒ほど沈黙してから、こなたも小さい声で返事をした。 「――云えないよ」 「それじゃ、私も聞かない。教えてくれないことには理由があるんでしょ」 私も、つかさも、みゆきも。別にこなたが隠している事情を知りたいわけじゃない。ただこなたにいつも通り心からの笑顔を浮かべていて欲しいだけなのだ。 「そうだけど、それでいいの? それ聞きにきたんじゃないの?」 「違うわよ。久しぶりにあんたと二人で勉強するのもどうかなって。最初に云ったじゃないの」 あるいはゆたかちゃんやそうじろうさんなど、こなたの家族や親戚ならなんらかの事情を知っているかもしれない。けれどこなたが隠していることを他の人に教えてもらっても意味がない。それでこなたの問題が解決するとは到底思えず、それどころか勝手に事情を詮索することで、こなたを傷つけることになるかもしれない。私たちはそう思っていたのだった。 「――い、云ったけど……よくそんな恥ずかしいこと云えるね、かがみの癖に……」 「特に恥ずかしいとは思わんが。ってか私の癖にってどういう意味だ」 ――別に。 そう云って、ぷいっと横を向くこなただった。 ふて腐れたような態度はしていたけれど。 その後、こなたは私の正面に座ったまま、二度と自分の机に戻ることはなかった。 「ああ、もうこんな時間か」 ふと時計を見上げれば、もう夕食も近い時間になっていた。 なんだかんだでこなたはあれこれとわからないところを聞いてきた。なんでこんなところがと思うところもあったけれど、答え辛い質問、私も完全には理解できていない部分の質問なんかもあって、答える私にとってもいい勉強になったと思う。 「よかったらごはん食べてく?」 座卓の上にぐでんと寝そべって、こなたは上目遣いで私を見る。 「いや、さすがに急には悪いわよ。家にも遅くなるって云ってないから用意してるだろうし」 「そっか、まあ、そうだよねー」 ――その台詞がどこか淋しそうに聞こえたのは、私の思い上がりだろうか。こなたの後ろ姿を眺めてそう思う。 こなたはティーカップとお皿を纏めると、お盆に乗せて部屋を出て行った。 渡そうかどうしようか迷っていたけれど、ここまで来たら渡してしまおう。そう思って鞄からプレゼント用の紙袋に包まれたそれを取り出したところで、こなたが部屋に戻って来た。 「ん、どったのそれ?」 「いや……」 恥ずかしくて、顔に血が昇っていくのを感じていた。これを編んでいる最中、私はこなたのことばかり考えていた。編み棒を動かす度にこなたの声を思い出し、編み目を作る度にこなたの笑顔が思い浮かんだ。そんな私の想いが宿っているような気がして、つい差し出すことにためらいを感じてしまう。けれど、そう思うからこそみんなの前では渡しづらいなと思って、今日これだけを持ってきたのだ。 「おおお、なになに? なに一人でデレてんの?」 「う、うっさい!」 途端にあのニヤニヤ笑いを浮かべ出して、ここぞとばかりに近寄ってきて脇腹をつんつんとつつき始めるこなただった。 「やめんか、もう……。はいこれ、ちょっと早いけど上げるわよ」 「おお? あ、クリスマスプレゼント? なんで?」 「なんでもないわよ。ってか恥ずかしいから後でこっそり開けてよね」 「それって、今開けろっていう意味?」 いっそ憎たらしいほどに笑み崩れた顔で、こなたはとんでもないことを云い出した。 「ちょ、まっ、なんでよ!」 「いやー、押すな押すなは押せっていう意味でしょ、芸人的に」 「私は芸人じゃないわよ!」 「じゃ、ツンデレ的に?」 「どこでそんなコンセンサスが定まってんのよ!」 ――ビッグサイトかな? なんてことをのたまって、こなたは鼻歌交じりにシールをペリリとはがし始めた。私はもう自分のこんな顔をみられたくなくて、さっきまで座っていたクッションを頭に被って床にはいつくばる。けれど冷静に考えたらこんなものの下に隠れられるわけがない。そんなこともわからないほど、私は慌てていたのだった。 「こ、こりは……」 意外な物を見た、というような沈黙の後、一転穏やかな口調になってこなたは云った。 「これ、手編みだよね?」 「そうよ、悪かったわね既製品より荒くて!」 「んーん、一瞬わかんなかったよ。でもタグみたいなのが全然ついてなかったから手編みかなって」 「そ、そう?」 思ったより弄ってこないな。そう思って顔を上げると、こなたはなんだか優しそうな表情をしている。 「ありがと、嬉しいよ」 そう云ってふわりと笑ったその顔は、私が今までみたことがないような表情で。こんなときにそんな顔をするこなたのことを、私は卑怯だと思った。 「べ、別にそんなに気合い入れてたわけじゃないんだからね。ただ勉強の合間の気晴らしに少しずつやってたって云うか」 だから私は、思わず憎まれ口を叩いてしまうのだ。けれどそんな私の言葉を聞いて、こなたは肩をぷるぷると震わせ始めた。そうして我慢ができなくなったように突然ぷーと吹き出すと、けたけたと笑い出したのだった。 「あ、あははははは! か、かがみそれ、それなんてツンデレ? テ、テンプレすぎる、あははははは!」 爆笑するこなたを前にして、私は恥ずかしさの余り何も云うことができなくなっていた。ただ口をぱくぱくと開けては閉め、開けては閉めるのを繰りかえす。こなたは脱力して立っていられなくなったようで、床に転がってひーひー云いながら足をぱたぱたさせている。 頭に血が昇って、どんどん顔が熱くなっていくのを感じている。今の私の頬は、きっとこれ以上なく赤くなっていることだろう。口を開いても、出てくるのはあうあうという間抜けな音ばかり。いたたまれなくなった私は、頭を沸騰させたまま荷物をひっつかんで云い放った。 「も、もう帰るっ!! また明日!」 「あ、あはははは、気をつけて、あはははは、お、お腹痛い」 まだ笑い転げているこなたを部屋に残して泉家を出た。 かっかと火照った身体に冬の風が寒くって、ぶるると身体が震え出す。空ではすでに夕陽が宵闇に駆逐されかけていて、地平線にオレンジ色の残滓が残るだけになっていた。冬至が過ぎたばかりで、今は一番夜が長い時期なのだと思い出す。 寒さに縮こまりながら裏手に回り、自転車を出してこぎ出した。 まだ頬には火照りが残っている。 けれどペダルを踏む度冷たい空気が身体に当たって、風はそんな火照りを冷ましながら後方に吹き流れていく。 やがて沸騰した頭が完全に冷めきると、その後に残った物はきらきらと光る宝石のような何かだった。 ――ふふ。 思わず、口元に笑みが浮かぶ。 あの時のこなたの表情、大口を開けてひたすらに笑い転げる様子、笑いすぎて目尻に浮かんだ涙、ひるがえった青い長髪。 思い出すと、また少し頬が熱くなる。冬の夜風であっても、こんな想いを冷ますことなんてできやしない。 なんだかペダルを踏む足が軽かった。 羽根が生えたように、身体が軽かった。 戻ったらつかさに話して、みゆきに電話して、そして――。 明日の準備をしよう。クリスマス会の準備をしよう。 ――楽しくなる。きっときっと楽しくなる。 そのとき私は。 両手を拡げたら、空も飛べそうな気がしていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『4seasons』 冬/きれいな感情(第八話)へ続く コメントフォーム 名前 コメント 原作だとこなたの方が走るの早そうだけど -- 名無しさん (2017-05-11 05 02 49) いやー恋って本ッッッ当にいいものですね -- 名無しさん (2008-07-04 06 19 39) かがみー!こなたがデレてるのに気付けー! -- 名無しさん (2008-06-30 01 37 57) もう 「らき☆すた」はコレで良いじゃない -- 名無しさん (2008-06-28 08 52 34) 映画化を激しく希望する。 -- 名無しさん (2008-06-27 18 11 52) すごく綺麗……こんな二人をいつまでも見たいwww -- 名無しさん (2008-06-27 17 36 05) もう、めっさたのしい! -- 名無しさん (2008-06-27 11 36 57) これだけ誰かを愛せたなら、明日死んでもあまり後悔しないかも。 いや、冗談抜きで。 -- 名無しさん (2008-06-27 02 39 03) なんでだろう… 涙が出てくる。 心から、あなたの作品が好きです。 -- 名無しさん (2008-06-27 02 36 07)
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THE COLORS OF FOUR SEASONS 軽井沢 13 years 発売元:リカーズハセガワ 容量/度数:700ml/64.2% 蒸溜/瓶詰:1999.3.20/2012.9.28(13) 樽番号:#5329 Cask Type:Sherry Butt 販売本数:82 THE COLORS OF FOUR SEASONS 軽井沢 12 years 発売元:リカーズハセガワ 容量/度数:700ml/64.8% 蒸溜/瓶詰:2000.12.1/2013.2.1(12) 樽番号:#5173 Cask Type:Sherry Butt 販売本数:185 名前 コメント
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『4seasons』 冬/きれいな感情(第十話)/後より続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §21 一面の、白だった。 見渡す限りの水田を、降り積もった雪が真っ白に染めていた。 空はどこまでも晴れ渡って青。けれどその青は夏のそれのように原色に輝くものではまるでない。寒々として凍りついたその青は、寒色の名に相応しくくすんでいた。 まっさらな処女雪が、朝の弱々しい光に輝いている。空から振る光より照り返しの白のほうがよほど眩しくて、運転するつかさは大変だろうと、私は少しだけ場違いな心配をする。 自転車を漕ぐつかさは、先ほどから一言も喋っていない。 私は後ろの荷台に女の子座りして、ぎゅっとつかさの身体を抱きしめている。 シャーと軽快に鳴るスポーク。その音が雪に吸い込まれて消えていき、私は顔の周りに白い吐息をまき散らす。 空に架かった電線から、ばさりと雪が落ちてくる。つかさがびっくりして自転車をよろめかして、私はぎゅっとつかさの身体を抱きしめる。やっぱり二人乗りは危ないなと思う。 『迎えに行く?』そんなそっけないメールが届いたのは朝の十時くらい。着信を告げる振動に私の意識は覚醒していった。 どんな夢を見ていたのだろう。今となってはその残滓すら思い出すことが出来ない。あるいは記憶している現実が本当は半ば夢だったのかもしれない。 けれどベッドの隣にはこなたがいた。目蓋を腫らして、口元に指を当てながら、苦しそうな顔をして眠っていた。その片手が、ぱたぱたと何かを探すように動いていた。ケータイを開きながらそっと身を横たえると、私の身体を見つけたこなたが、嬉しそうな顔をしてしがみついてきた。 『お願い』とだけ返したそっけないメール。きっとつかさには、それだけで通じたことだろう。 ――部屋を出るとき、こなたは私の頬にさよならのキスをしてくれた。 それはきっとこなたの精一杯の愛情表現で、だから私は今もこの場所に踏みとどまっていられると思う。 「雪合戦をしよう」 自転車をガレージに入れて戻ってきたつかさに私は云った。 つかさは丸い目をよりまん丸にして驚いた。 「――お姉ちゃん?」 「なぁに?」 「えっと、大丈夫?」 おずおずと、上目遣いでそう云ったつかさに私は苦笑する。 「大丈夫よ。ほら、せっかくこんなに積もったんだから、少しくらい遊んで行こうよ」 そう云って、私は周囲を指し示すようにくるりと回る。 「そっか。そうだよね。うん、いいよ」 つかさは笑ってくれたけれど、私が云った理由に心から納得しているかどうかは怪しい。雪が降ったら雪合戦をするのは普通かもしれないが、こんな日にそんなことを云い出す理由が“せっかくだから”、では弱いだろう。 ――本当は、怖かったからだ。 私の心はまだ昨夜の払暁辺りを彷徨っていて、こんな気分のまま日常に満ちた家に入るのが怖かった。 神社の裏手は空き地ではなく、本当は境内の一部だった。 だからこんな風に遊び場にしてはいけないのだけれど、それでも人目につかないこの場所は、昔から私とつかさの遊び場だった。一人になりたいとき、あるいは二人になりたいとき、よくここに来ていた物だった。私たちにとって、その両者はほとんど同義だったのだ。 「わー!」 まっさらな、まだ誰も足を踏み入れていない白。表面が少しだけ凍っていて、足を踏み出す度にざくざくと小気味いい音を立てていく。子供っぽいとは思ったけれど、いくら年を取ってもこの行為が楽しくなくなるとは思えない。私たちは先を争うように雪に足跡をつけていった。靴が完全に雪に埋まる。昨夜は随分降っていたのだなと思う。 「うひゃっ!」 油断していると、突然首筋に雪玉が投げられて、その冷たさに思わず間抜けな声を上げてしまった。 慌てて振り向くと、満面の笑みを浮かべたつかさの足下に、すでに雪玉が何個か出来ている。 「やったなこいつ!」 私も急いでかがみこみ、雪を掬って両手で握る。その間にも、つかさの攻撃がやむことはない。華やいだ笑い声。額に、身体に、足に雪玉が降り注ぐ。 雪玉は、握りが緩いと敵に当たる前にばらけてしまう。けれどしっかり握りすぎていると弾数を稼げない。これで意外と戦術が必要なのが雪合戦なのだ。 私は必死で反撃を開始する 姉の威厳というものがある。つかさに負けるのは悔しい。たちまち私たちの間を雪玉の弾幕が飛び交っていった。 普段は双子だから姉も妹もないと云っているけれど、それでも私は姉になってしまった。私がこんな性格になった原因の中で、きっとそのことは大きな比重を占めるだろう。つかさがこんな風に女の子らしい穏やかな性格になっていったことも、つかさが妹として産まれたことと深く関係しているはずだ。 ぺしゃり、つかさの鼻っ柱に雪玉が当たる。あははと笑った私の口の中に雪玉が飛び込んできて、慌ててそれを吐きだす。昔はよく雪を食べたりしたな。そんなことを思い出す。 ――つかさは、雪合戦もできない子供だった。 他人を傷つけてしまうのを怖がって、雪玉を相手に投げることができない子供だった。だから特訓、あるいは度胸試しと称して、こうして二人だけの雪合戦をよくやった。雪玉を投げるのは相手を傷つけるためじゃない。それをわかってもらいたくて。 雪玉がつかさの身体に当たり、パッと光の欠片が飛び散った。 もし産まれた順番が逆だったなら、私たちはどうなっていたのだろう。そんなことをふと思う。つかさがお姉ちゃんで、私が妹。もしそうなっていたなら、私はつかさみたいに、つかさは私みたいになっていたのだろうか。 きっと、そうはならなかっただろうと思う。 私たちは二卵性双生児だから、持っている遺伝情報が異なっている。いや、例えそれが一卵性双生児だったとしても、母胎内での成長の仕方だってきっと違う。ホルモンの分泌の仕方が違えば脳の形だって変わっていく。人の性格は、持って生まれたものと成長しながら獲得していったもの、その両輪によって形作られるはずだ。きっと生真面目な妹と、優しくておおらかな姉になっていただけだ。 人を形作るもの。性格や体格や能力や好み、あるいは性自認や性的指向まで。その人がそうなった理由を単一の原因に求めることなんてきっとできやしない。その理由は、複雑に絡み合った因果関係のつづれ織りになっていて、それをきっと人は運命と呼ぶのだろう。 ――けれど。 けれどもし。 例えばかなたさんが生きていたら、こなたはアセクシュアルとして育っただろうか。 そう考えた瞬間、私の胸がぎゅっと締めつけられたように軋んだ。心臓病の発作かと思うほどに強く。 そこに雪玉が飛んできて、勢いよく私の胸に当たる。 身体から力が抜けていき、私は仰向けに倒れ込んでいく。まるで『恐るべき子供たち』の開幕の情景のように。私が雪玉を胸に受けて倒れるポールなら、つかさはエリザベートだろうか。それともジェラールか、あるいはアガートか。わからない。 でも、こなただけは決まっている。こなたは絶対にダルジュロスだ。圧倒的な魅力でポールの人生に影を落とす、ポールの同性の想い人。 倒れたまま動かない私を心配したのだろう。小走りでつかさが駆けてくる音がする。私は少しだけ乱れた呼吸を整えながら、潤み始めた瞳で空を見上げていた。どこまでも青い空。それは限りなく透明に近い青。 「――お姉ちゃん?」 「嘘つき」 思わず私の口からそんな言葉が飛びだして、つかさがはっと息を呑む気配がする。 こなたは、私のことを好きなんかじゃなかった。つかさたちに向けているのと違う好きを、私に感じてなんていなかった。つかさが云ったことは、嘘だった。 「――ごめんね」 ぽす、と雪に座る音がする。そんなところに座りこんでいたら、きっとお尻が濡れてしまう。浮かんできた涙を必死でこらえながら、心のどこかでそんなことを考えた。 「違う、違うの。そんなこと云いたいんじゃない。ありがとうって云いたかっただけなのよ」 ――なのに、なんであんなことを云ってしまったのだろう。 つかさのことを恨んでいるのだろうか。あんなに私のことを応援してくれた大事な妹のことを。つかさのことを羨んでいるのだろうか、悩む必要がないストレートとして育ったことに対して。 けれど心の中のどこを探してもそんな感情は見あたらなくて、私はどうしてあんなことを云ってしまったのかと訝しむ。 「大丈夫。わかってるから」 つかさは、もしかしたら私以上に私のことを知っているのかもしれない。そんなことを考えた。 「――ありがとう」 私がそう云うと、視界を埋める空の中につかさの顔が飛び込んでくる。淡い逆光を背負って、その肌が雪よりも白かった。 そうしてニカリと笑った。歯をむき出した、男の子みたいな笑い方。 姉の、威厳というものがある。つかさの前で泣き出すのは避けたい。 けれど一筋流れ出た涙を、きっとつかさに見られていた。 §22 結局その日は一日何もする気になれなかった。 いのりお姉ちゃんはまだ戻っていない。夕方近くなるまで戻らないとお母さんが云っていた。 つかさは部屋で勉強をしている。 お父さんはクリスマスだろうと気にせず神社で祝詞をあげている。 そうしてクリスマスのリビングでごろごろしている、年頃の女の子二人。まつりお姉ちゃんは、昨日私が家を出てからずっとそこにいたかのように馴染んでいた。 律儀に昨日のテレビ番組の話なんかをするまつりお姉ちゃんに生返事をしながら、見るともなしにテレビを眺めていた。お姉ちゃんは私に何事かあったことには気がついていただろうけれど、一度もそれに触れてくることはなかった。 姉妹なんて、そんなものだと思う。なんとなく色々なことをわかっていながら、あえて踏み込んだりはしない。頼られるまではわざわざ手を差しだしたりはしないけれど、いつだって見守っている。 クラスメイトだったら絶対友達になれないタイプだったけれど、私は多分、まつりお姉ちゃんと仲が良いんだと思う。 「つっまんないテレビだね」 ふてくされたようにお姉ちゃんが云う。 「クリスマスだもん、そんなもんだよ」 画面の中で“オネエ”タレントがシナを作って、スタジオが笑いに包まれる。 「この手のキャラって、どうせ私生活じゃバリバリ男なんだろな」 「知らないわよそんなの」 まつりお姉ちゃんは、身体を揺らして笑った。 ピッ。すぐに飽きてチャンネルを変える。 『――った大雪は恋人たちにホワイト・クリスマスをプレゼントしましたが、一夜明けた今日、各地で交通機関を麻痺させることになりました』 降り積もった雪。駅。行き交う人々。 ピッ。 『――はあなたです』 『何を云う、一体どんな証拠があるのかね』 『証拠ならあります。あなたは全ての写真を処分したと思っていたようですが、この写真が残っていることにまでは考えが至らなかったようですね』 『そ、それは』 『そうです、その部屋で撮られた記念写真。これにコルクボードに貼られた、あなたが見せたくなかったその写真が写ってい――』 ピッ。 『――てるのは大変でした。家事のことなんてろくすっぽやってこなかったですから。ええ、そういう時代でしたからね。お袋や近所の人に色々手伝ってもらって。もう、娘はみんなで育てたようなものですね』 部屋を模したセットで男の人が語っている。 そろそろ初老の域に入ろうかという文化人だった。確か映画監督だったはずだけれど、私はその人の撮った映画を一つも見たことがなかった。テレビに登場する度に映画監督として紹介されるけれど、その人が撮った映画よりその人自身の方が余程有名だろうと思う。 語っているのは、男親一人で娘を育ててきたという内容らしい。 ――思い出す。 今朝、泉家を辞去するときに見送りにきた、そうじろうさんのこと。 淋しそうな、申し訳なさそうな、さっぱりしたような、なんとも云いがたい複雑な表情。きっと昨夜こなたの部屋で起きたことを、こなたや私の態度からある程度は察していたことだろう。 そうじろうさんはこなたがアセクシュアルであることを知っている。こなたがそう云っていたのだから、それはもう間違いない。 ならば小父さんは、あのとき私がレズビアンだと知っていて、あのセリフを云ったのだろうか。 『辛いかもしれないけれど、こなたのことをずっと好きでいてやってくれないか』 ――確かにとても辛い。 それでもあえて私にこなたのことを好きでいろと、そう云ったのだろうか。報われないことを知っていて、神の無償の愛をこなたに捧げ続けろと。 「――勝手なことを」 ぼそりと、私は呟いた。 「ん? なんか云ったかがみ?」 「なんでもない。本当につまんないテレビだね」 ごろりと寝っ転がる。 つまらないのはテレビだけではないと思う。 いのりお姉ちゃんは、上機嫌で帰ってきた。手にしていたバッグをくるくると振り回し、スキップをしながら鼻歌を歌っていた。 お土産に買ってきたのはクリスマスプディング。 昨夜のことを思い出してしまって、私は慌てて部屋に逃げ込んだ。 勉強しないといけないのはわかっている。けれど何をする気力も起きなくて、ベッドに転がったまま天上を見上げていた。 夕方になってやっと動き出した私は、脱衣所で洗濯するものとクリーニングに出すものの仕分けをしていた。昨夜着ていったものはことごとく泥だらけになっていた。こなたはいいと云っていたけれど、服が乾くまで着ていたこなたの服も持ってきている。 アウターはもう全部クリーニングだな。そう思いながら紙袋にぼんぼんと服を突っ込んでいって、はたと私の手が止まる。 こなたに借りたショーツ。フリルレースに薔薇飾りのリボンなんてついた、可愛らしいふりふりのショーツ。それが私の手にあった。 ――こなたは、これを私に見せるつもりで買ったのかもしれない。唐突にそう思った。 私に恋をすることができたなら、私を愛することができたなら、そう思ってこなたは私にキスをした。可愛い服を着て、メイクをして気持ちを盛り上げた。こなたはそう云っていた。 もし、こなたが私にときめくことができたなら。自分が私の気持ちに答えられるかもしれないとこなたが思ったなら、きっとその先のことも考えて――。 この純白の、少女趣味丸出しの可愛らしいショーツ。 それが、こなたがイメージする恋なんだ。 こなたはこれを買うときにどう思っただろう。私がこういうのを好きだと思ったのだろうか。これを穿いて私の前に立つ自分の姿を想像したのだろうか。そのときに、ほんの少しでも胸に甘い疼きは訪れたのだろうか。 わからない、それはわからないけれど。 けれどこなたはこれを私に差し出した。『穿かないから』とそう云って私の手にこれを押しつけた。 ――こなた。 私は脱力してその場にしゃがみ込む。身体から力が抜けていき、立っていられなくなってしゃがみ込む。 こなたに見捨てられたこのショーツが可哀想だった。こなたが持てたかもしれない、その恋心が悲しかった。 身体も、頭も、痺れたように動かなかった。動かし方そのものを忘れてしまった。そんな糸が切れたような脱力感に支配されていた。 そうして私はやっとそれに気がついた。 ――私は、こなたに振られたんだ。 『ごめんね。かがみの気持ちには答えらんない』 そう云ったときのこなたの様子。うつむきがちに涙を拭いながら、けれどきっぱりとこなたは云った。 私の気持ち、それは一体なんだったのだろうと思う。恋とか愛とか欲望とか好意とか。一つ一つの言葉の意味はわかっても、並べてみるとその違いはよくわからない。私はこなたに何をしたかったのか。こなたとどんな関係になりたかったのか。それが私にはよくわからない。 私はそれを一度は手にしたはずだった。あの秋風の吹く美河町の海岸で。 あの日こなたを抱きしめたとき、私の前には一本の道が拓けていたはずだった。こなたと手を取りながら歩いていくその道が、どこまでも遠くその先まで見えていたはずだった。 けれど、今となってはそれがなんだったのかわからない。 私の気持ち。それがなんだったのかわからない。 様々な想いで混乱した頭の中、ただこなたに振られたという事実だけが、べったりと貼りついて離れなかった。 ――ずっと、うつむいたまま。 つかさに発見されるまで、私はそこでうずくまっていた。 自室に戻っても、私はそこでうずくまっていた。雪に閉ざされた、クリスマスイブのあの部屋で。私の心はあそこから一歩も外に出られていなかった。私の時間はあの夜から止まっていた。 子供の頃から見慣れた自室の中で、床に這いつくばって丸まった私は、広漠とした雪原を幻視する。それは見渡す限り真っ白に広がった、フラットな感情の地平線。 積もっているのは雪ではない。それはあの夜に私の心に降り注いだ、感情の欠片たちだ。しんしんと降る雪のように私の心に降り注いでいた、あの感情。恨みや悲しさや愛しさや願い、そんなものが入り交じって真っ白になったその感情。 それが、あらゆる叫びや願いを飲み込みながら、陽光を照り返してきらきらと光っている。 降り積もった感情の死骸に埋め尽くされて、息をするのも億劫だった。冷たく白い想いの底で、私は膝を抱えてうずくまっていた。 帰り道に見た、どこまでも続く白い雪原。 あの底に、私の心が埋まっている。 半ば自動的にメールを返す。 みゆきから来たメールは、明日こちらに来てもいいかというものだった。つかさからある程度のことは伝わっているだろう。けれど私はつかさにも昨夜のことは話していなかったから、具体的なことは何も知らないはずだ。それとも、こなたからもう聞いているのだろうか。 ――少しだけ。そう、少しだけ億劫だった。 二人が私のために身を粉にして駆けずり回ってくれたことはわかっている。神経をすり減らしながら私とこなたのことを見守ってくれてきたことは痛いほど身にしみている。 けれどあと少し。そのことを話すのはもう少しだけ先にして欲しいなと思った。私の中で心の整理ができるまで。 けれどきっとそれでは遅いのだろう。 ――もう、すぐ、受験が始まる。 その夜は中々眠れずに、明け方になって少しまどろんだだけだった。 §23 「――そういう、ことでしたか」 目の前の親友が沈痛な面持ちでうなずいた。ふわふわとした、ウェーブがかった桜色の髪。丸く穏やかな顔立ちだけれど、どこかシャープな顎の線。本当に綺麗な子だと、見る度に私は思う。 テーブルにはつかさが作ってくれたきな粉のクッキーとダージリン。みゆきは美味しいとしきりに褒めていたけれど、私には不思議と味がよくわからなかった。なんだか昨日から色々なものが麻痺している気がする。味覚にも視覚にも、何か薄皮が一枚はりついているような感覚。 「――えっと、ごめん。よくわかんないんだけど……」 つかさは紅い顔をして申し訳なさそうに首をすくめる。それも仕方ないかなと私は思う。私だって知識として知っているだけで、その本当のところはよくわかっていない。きっとみゆきだってそう大差はないだろうと思う。 「私も実感としてはよくわかりません。ただ、私たちが人を好きになるようには人を好きになれない、そんな人もいるのだと……」 「わたしが、女の子を好きになれないみたいに?」 「そういうことですね。女の子だけではなくて、男の方も好きになれない、ということなのでしょう」 「こなちゃんは、お姉ちゃんがこなちゃんを好きなようには、お姉ちゃんを好きになれないってこと?」 「そうよ」 私がそう云うと、つかさは不思議そうに首を傾げて唸った。 みゆきもそんなつかさを見て、それから私を見て、困ったように首を傾げていた。 約束通り、みゆきは家に来た。 クリスマスの次の日、あの夜の翌々日のことだった。 予想に反して、みゆきはこなたから大体のことを聞いていたようだ。とは云っても、聞いていたのはこなたのセクシュアリティに関することではない。 ――かがみのこと、振っちゃった。 こなたは、涙声で、そう云っていたという。 詳しいことは私から聞いてくれと、そう云って電話を切られたのだそうだ。 こなたにメールで確認したところ、自分で上手く説明できる自信がないからということだった。あいつも、まだあまり人に会いたくないのかもしれない。 ――そんなの、私だって同じことなのに。 こなたにこうやって下駄を預けられること、嫌いではなかった。宿題を頼まれたり、みんなで遊ぶときに連絡を丸投げされたり、服を買いに行ったときに私に選ばせたり。口では文句を云っていたけれど、こなたに信頼されている気がして嬉しかった。面倒なことを私に任せて、アニメやゲームの方ばかりを向いてのほほんと遊んでいるこなたのことは、見ていて私も楽しかった。 けれど今は、そんなこなたの性格が少しだけ恨めしい。 「――かがみさん?」 「あ、ごめん。なぁに、みゆき」 「こなたさんのお話です」 「ああ、そうね、えっと――?」 なぜだろう。まるで聞こえていなかった。 目の前にいるみゆきの声が聞こえていないはずがない。けれど私の耳に、つかさとみゆきの会話は聞き慣れない呪文のように響いていた。意識して聞こうとしないと、右から左へと流れるように通り過ぎていってしまうのだ。 ――きっと、全部雪で埋まっているからだ。 そうして私はまた、この部屋にあの雪原を幻視する。 私を埋め尽くすように降り積もった感情の死骸が冷たく凍りついていて、目を、口を、耳を、肌を、あらゆるものを麻痺させている。こんなに現実感を感じられないのはきっとそのせいだ。何もかもがどこか遠い世界のできごとのように感じるのは、きっとそのせいだ。 遠い世界にいるみゆきが口を動かして、聞き慣れない声が聞こえてくる。 「こなたさんにとって、きっとかがみさんに話すかどうかが問題だったのでしょうね、と。かがみさんが知っている以上、私たちが知っていても構わないのだと。そういうお話をしてました」 「――そう。そうなのかな。うん、きっとそうよね」 なんて身のない返事。気の抜けた返し。自分でも喋っていてわかる、私は口先だけで物を云っている。 そんな私を見て、視界の隅でつかさが悲しそうに目を伏せていた。 「ごめん、わたしおトイレいってくるね」 つかさはそう云ったかと思うと返事を待たずに立ち上がり、部屋を出て行った。その背中が不思議と淋しそうに見えて、私はそれがなぜだろうと思う。 二人だけになった部屋は、先ほどよりも少しだけ気詰まりだ。普段みゆきと一緒にいて気詰まりに感じることなんてないのに、今このときは何か重苦しい物がのし掛かっているように感じていた。それはもしかしたら、ただ私の心の中だけにある重石だったのかもしれないけれど。 みゆきは、物思わしげに顔を伏せながら頬に手を当てていたけれど、ふと顔を上げたかと思うとぐいとこちらに身を乗り出してきた。そうしてじっと私の顔を睨みつけて云った。 「かがみさん」 「は、はい?」 その迫力に、私は少しだけのけぞった。みゆきがこんな風に身体を近づけてくることなんて今まであまりなかった。いつもじっと背筋を伸ばしながら、一定の距離を保って話す子だった。 「私は、ここにこなたさんの事情を聞くためだけにやってきたわけじゃないんです」 「――え? あ、そうなの?」 「はい。――あなたが、悲しんでいるだろうと思って……。それで、来たのですよ」 「そうなんだ、ありがとう……」 「……それなのに、かがみさんはあまりそういう様子を見せてくださいません」 「――悲しんでる、わよ?」 何を云い出すのだろうと私は思った。けれどみゆきは私の言葉を聞くと、否定するように首を横に振る。桜色の髪の毛が、優美な描線を宙に描いて舞っていた。 「私は、かがみさんのことを心から尊敬しています。いつも凜と張り詰めていて、前向きに、誠実に、正しくあろうと努力されていて。――なんてきれいな人だろうと、いつも思っていました」 「……みゆ、き?」 突然振ってきた賛辞に、私は呆然とする。みゆきが何を云いたいのかわからなくて、呆然としながら彼女の名前を口にする。 ――でも。 みゆきは、私から視線を逸らさずにそう云った。クリスマスイブに私のお尻を叩いたときのように、じっと私の目を見つめながらそう云った。 「泣いて、いいんですよ」 「――みゆき?」 何かが、揺れる。 「愚痴を云って、いいんですよ」 「――みゆき」 みゆきが言葉を紡ぐ度、心の中で何かが揺れていく。 「私は、つかささんじゃありません。かがみさんが護らないといけない、弱味を見せられない妹じゃありません。それに、私はこなたさんでもありません。あなたが愛していて、ほんの少しでも嫌われたくないと思っている人ではありません」 「そんなこと――」 否定しようとして口を開いたそのとき、みゆきが両手でそっと私の頬に触れた。 「私は――ただの親友です。あなたにとって何の重みもない、ただの親友なんです。だから私の前では全部吐きだしてしまっても、崩れてしまっても大丈夫なんですよ」 包み込むように置かれた掌からじんわりと温もりが伝わってきて、その熱が私の心の中に染みこんでいく。 「かがみさんがそれをみっともないと思っていることもわかっています。そんな自分はお嫌いだということもわかっています。それでも、私だけは。私だけは決してそれを嫌いませんから。――だから」 ――降り積もった雪のような、その感情。 私の心を凍らせていたその感情が溶けていき、目の端からこぼれ落ちていくのを感じていた。 「――あれ? 私、なんで――」 ポロポロとこぼれ落ちていく涙を止めようとして、私は慌ててぐしぐしと目をこする。けれど涙は拭う端からこぼれ落ちてきて、私はそれがなぜだろうと思う。 泣くような気分ではなかったはずなのに。悲しいなんて感情は、くもりガラスの向こうで渦巻いているような、どこか遠い物に感じていたはずなのに。 みゆきの言葉は、そんなガラスを粉々に砕いてしまっていた。触れられた手の温もりは、凍っていた私の感情を溶かしきってしまっていた。 胸の奥、深いところから嗚咽がせり上がってきて、私の呼吸を震わせる。意志に反して漏れようとする呻き声を抑えこもうと、私は口元を手で覆う。 けれどそんな私の涙を掬って、みゆきはゆっくりと微笑んだ。 その笑顔を見た途端、どこか書き割りのように見えていた現実が、普段通りの厚みを持って戻ってきて。 そうして私は気がついた。 ――この胸に凝り固まっていた、悲しみの深さに。 「――期待、してたんだ……」 止めようもなくわき上がる嗚咽の狭間から、鎧った心の隙間から、漏れ出てきたのはそんな言葉だ。今まで一度として心の表面に浮かんでこなかった、浮かんでこないように抑圧してきた、それはそんな言葉たちだった。 「……ほ、本当はちょっと、期待してたんだ……。こ、こなたは私のこと、好き、なんじゃないかって……心のどこかで、ずっと」 「……ええ」 もう、止めようという努力は放棄した。涙が頬を流れ落ちていくままにして、私は懸命に言葉を継いでいった。 「こなたと、こ、恋人になれるんじゃないかって……」 「……ええ。ええ」 「こなたと、ずっと一緒に、いられるんじゃ、ないかって……」 「……私も、そうなってくれたらどれだけいいと思っていたことでしょう……」 胸の中の黒い塊に触れるたび、全身が痛んで震え出す。流れ出る涙は蛇口が壊れたのではないかと思うほどだった。 こんなものを抱えていたんだなと私は思う。こんなものを胸の中に隠していて、よく今まで平気な顔をできていたなと私は思う。気がついてしまった今となっては、それは無視するには余りにも大きな痛み。余りにも大きな悲しみだった。 苦しくて辛くてどうしようもなくて、私はみゆきの手を掴みながらぎゅっと頬に押しつけた。 すがるように。 溺れる人が藁を掴むように、罪人が蜘蛛の糸にとりつくように、ぎゅっとみゆきの手を握っていた。 そうして子供みたいにしゃくり上げながら、私はそれに気がついた。 ――一昨日の夜、私はこなたのためだけに泣いてしまったのだ。 私だって傷ついていたのに。 私だって悲しんでいたのに。 私はそれを無視して、ただこなたのためだけに泣いてしまっていた。 ――可哀想だと、私は思った。 叶わなかった私の恋心が、可哀想だった。 「な、なによアセクって……なんでよりによってこなたがそんななのよぉ……わけ、わかんないわよ……」 涙に滲む視界の中で、みゆきがぎゅっと唇を噛むのが見えていた。みゆきは悲しそうな顔をして瞳を揺らしていたけれど、泣き出すことはなかった。ここでみゆきまで泣いてしまえば、こなたと共に泣いた私と同じことになってしまう。 だから、みゆきは泣かなかったのだと思う。 「……なんで、なんで私がこんな目に合わないといけないのよ! ただ、人を好きになっただけなのに!」 叩きつけるようにそう叫ぶと、みゆきはそっと瞳を閉じて、天を振り仰いだ。 ――神に、祈るように。 そうして、私の身体を抱きしめた。 両性愛者の私のことを、みゆきは抱きしめてくれたのだ。まるでお母さんが子供を抱くように。ぎゅっと。 その身体の温かさ、柔らかさ。女らしいその丸み。それに心から安堵して、私はどんどん子供になっていく。心を鎧っていた自意識をはぎ取られて、私はどんどん裸になっていく。 「やだっ、もうやだよ私、こんなのもういやだよぉ…」 ――きれいになりたい。 ――正しくありたい。 そう願って生きてきたのに、私はみゆきの胸の中で厭だ厭だと喚き散らす子供だった。 「……みんな、みんな私に期待するんだ。お姉ちゃんだから我慢しなさいって……、お、お姉ちゃんは格好いいね、強いね。だから、だから我慢できるよねって……。そ、そうじろうさんなんて、私にこなたのことを好きなままでいろなんて……」 「……かがみさんは、格好いいですよ。それに強いです」 「そんなことない! そんなことないもん! 私だって、私だって欲しいんだよ! こなたのことが欲しいんだ! 全部、全部私のものにしたいのよ……こなたぁ……。たまにはわがままくらい、云わせてよぉ……」 背中に回されたみゆきの腕にぐっと力が入って、私はますます強くみゆきの胸に押しつけられていた。包まれているというその感触。こなたも、私に抱かれてこんな風に安心できたのだろうかと思う。 ――きっとできなかったことだろう。 なぜなら、私はこなたのことが好きだから。 ぐっと息がつまり、背中がびくびくと波打った。 全身が痙攣しているかのような嗚咽に、私は懸命に息を吸う。そのたびに横隔膜が震え出し、私はこのまま死んでしまうのではないかと思う。 「……云って、いいんですよ。わがままくらい……かがみさんは今までずっと我慢してきたんですから」 「じゃあ! こなたに、私のことを好きにさせてよ!」 嗚咽につっかえながら、私はみゆきに云った。何度も何度も途切れさせながら、みゆきにかなえられるはずもない、醜い願いを口にした。 「……ごめんなさい、それはできません」 「うそつき!」 「……ごめんなさい」 「わかってるわよそんなの! あやまんないでよバカっ!」 「……ごめんなさい」 「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 慟哭する。 一階にいる家族にまで聞かれてしまうかもしれない。ちらりとそう思ったけれど、そんな理性は感情の濁流に呑み込まれて消えていく。 こなたを好きだということを自覚してからこの一年弱、私は随分涙もろくなったと思う。ことあるごとに涙を我慢できずに、私は泣いてきた。 けれどこんな風に身も世もなく泣きわめいたことは一度もなかった。 ――おばあちゃんが亡くなった日。 その日も、私はこんな風に泣いた気がする。 小学校二年生だった。 暑い日だった。 蝉の声にまけじと、つかさと一緒に泣きわめいた。 こんな風に泣くことができたのは、あの日以来だと私は思う。 「……ごめん、ごめんねみゆき……変なこと云ってごめん。でも私だって、そんなこと考えるんだよ。そんな醜いこと、私だって思うんだよ……本当は私って凄い汚いんだ……」 「いいえ、あなたはきれいです。そんなことを思っているかがみさんだからこそ、きれいです」 「……みゆきは、お世辞ばっかりね……」 「お世辞ではないですよ。どろどろとした感情を持ちながら、それでも必死で歯を食いしばりながら懸命に正しくあろうとするからこそ、かがみさんは世界一きれいなんですよ」 慈しむようにみゆきがそう云って。 それを聞いたとき、私の心を抑えていた全ての理性が流れ去っていく。滝のようにこぼれ落ちていく涙に洗われて、私の悲しみが溶けていく。 そうして溶け去った雪原の下から、それが姿を現した。雪解け水にぬかるんだ土の中から、きらきらと輝くそれが姿を現した。 それは氷の彫刻のような何か。 悲しみで彫られ、涙に洗われた、それは透明に透き通る何かだ。 ――思えば素敵な恋だった。 こなたに恋していたこの年月。 思い返してみれば素敵なことばかりだったのだ。 惑った春の日も、喧嘩した夏の日も、抱きしめた秋の日も、傷ついた冬の日も。 かたわらにはいつもこなたがいて、こなたのことを見つめることができて、そうしてこなたも私のことを見つめてくれていた。 叶うことはなかったけれど。 成就することはなかったけれど。 きっと上出来な恋だったのだと私は思う。 私のこの恋は、きっときれいな感情だったのだと思う。 ――みゆきが、そう思わせてくれたのだ。 「――私、みゆきと友達になれてよかった」 私がそう云うと、みゆきは私の頭を撫でながら頬を寄せて呟いた。 「――私もです」 そのとき私の頭に何かがぽとりと垂れたように思うのは、きっと気のせいだっただろう。みゆきは、私が泣き疲れて眠り込んでしまうまで、ずっと私のことを抱きしめてくれていた。 ――トイレに行ったはずのつかさは、その日は一日私の部屋に戻ってこなかった。 それが、去年の十二月二十四日――冬の夜に関する顛末の全てだ。 §エピローグ 「――こなちゃん、遅いね~」 「まあ、いつものことじゃない。あいつのことだから、どうせぎりぎりになるんでしょ」 「ふふ、きっと遅くまで勉強していたのかもしれませんね」 「ないない。っていうかセンター前日まで勉強してても、当日遅れちゃ意味ないじゃないのよ。どうせ会場が陵桜大学だからって、気抜いてていつも通りのつもりでいるに決まってるわ」 「か、かがみちゃん、相変わらず泉ちゃんに容赦ないのね……」 ――一月十九日。 私たちはひぬみや駅前に集まっていた。待ち合わせ時刻は少し早めに、十分な余裕を持って設定していたはずだった。 今も電車が到着し、沢山の同年代の男女が改札から吐き出されてくる。 けれど、その中にこなたはいない。 こなたを抜かした私たち、私とつかさとみゆきとあやのは、改札からバス乗り場へと向かう人たちの群れを眺めながら、ずっとこなたのことを待っていた。 駅から陵桜大学に向かうバスはこのセンター試験のために増発されているけれど、それでもいっぱいに詰め込まれたバスが発車する度に、なんだか取り残された気分になるのだった。 「うー、なんだかみんなわたしより頭がいいように思えるよぅ……」 「またあんたは……。いいつかさ。あんたはこの一年、誰よりも勉強してきたのよ。それは近くにいた私が一番よく知ってるんだから。自信持ちなさい」 青い顔をしたつかさの手を取ってぎゅっと握りしめると、強ばっていた表情が段々と穏やかなものになっていく。 「……う、うん。がんばる」 そう云って浮かべた微笑みはいつも通りのほんわかとしたもので、私はそれに安心してつかさの背中をぽんと叩く。 本当につかさは、この一年よくやってきた。あんなことがあったにも関わらず、しっかりと前を向いて誰よりも大きく成長していった。きっとそう、私たちの誰よりもずっと。 「えへへ。でもやっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだね」 満面の笑顔でつかさがそう云って、私は少しだけ面食らって顔を熱くする。 「そ、そりゃそうよ。私は私だもの」 ――そう。私は私だ。 あの後も、私たちは普段通りに顔を合わせていた。初詣にはこなたもみゆきもうちの神社まで来てくれて、みんなで合格祈願のお祈りをした。 始業式にもいつも通りに待ち合わせをして、みんなで喋りながら学校へと向かった。 私もこなたも、それまでとまるで変わらない。 私が細かく世話を焼いて。 こなたは空気の読めない発言をして場をひっかきまわして。 私はそれにつっこんで。 こなたがニヤニヤしながら揚げ足を取ってきて。 私は顔を赤らめて。 まるでいつも通り。だって私たちはこれまでと同じ“一番仲がよい親友同士”なのだから。 変わったことと云えば一つある。 私は、あやのとみさおにも、こなたとのことを喋った。 私とこなたのセクシュアリティのこと。私がこなたに振られたということを。 みさおは不思議なほどあっさりとそれを受け入れた。以前から気づいていたのかもしれないし、単純にそれをそのまま受け入れられる性格なだけかもしれない。 あやのは、今も少し身構えるところがあるようだ。あやのの頭の中に、同性愛という可能性が浮かんだことはないのだろう。戸惑いと逡巡。今も少しだけそれを見せるけれど、そのうちにまた元通りの関係になれるだろうと思う。 結局のところセクシュアリティがどう違おうと、その人がその人であることには何ら変わりがないのだから。 「――あ、こなたさん来ましたよ」 そんなみゆきの声に視線の先を眺めれば、流れてくる人波の中、青いアホ毛がぴょこぴょこと見えていた。 「全く、やっとご到着かよ」 ――顔を合わせたら、うんと叱ってやろう。 うんと叱って、ふて腐れるこなたを眺めて楽しんで。 そうして一緒に会場へと向かうのだ。 センター試験が始まり、これから本格的な受験シーズンが到来する。 皆が皆それまでやってきたことを試されるこの時期に、将来に大きな影響を与えることになるこの時期に、私たちは大変な試練を乗り越えてきたのだと思う。 けど、だからこそ根拠のない自信がある。私たちはきっとこれからも大丈夫なのだという、漠然とした自信が。 ――一番素敵な未来を思い描こう。 私は、人波の中からこなたが顔を見せるのを、今か今かと待ちかまえていた。 (了) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『4seasons』そしてまためぐる季節/前へ続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― コメントフォーム(『4seasons』 冬/きれいな感情(第十一話))へ (容量が一杯だったため、分割しました)
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Seasons(激) 曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FA(SA) その他 Seasons TOMOSUKE feat. Crystal Paloa X3 激12 168 349 / 39 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 66 56 32 67 25 楽譜面(5) / 踊譜面(8) /激譜面(12) / 鬼譜面(-) 属性 渡り、交互難、同時踏み、リズム難、フリーズアロー 譜面 http //eba502.web.fc2.com/fumen/ddr/x3/seasons_8m.html 譜面動画 http //www.youtube.com/watch?v=DjUk_Lt2kc0 (x2.25, NOTE, Clap) プレイ動画 http //www.nicovideo.jp/watch/sm17020745 http //www.nicovideo.jp/watch/sm17020745 (x?.?, RAINBOW) 解説 DPでもFAによる強制スライドは健在。焦らずリズムを意識しよう。 -- 名無しさん (2012-05-06 00 29 09) 前半の方が強制スライドっぷりが酷く、接続スコア共に前半勝負。後半からはFAの末端を無視すれば交互に踏みやすく、スライドしたとしても近い距離なので復帰しやすかったりといくらかマシになっている。 -- 名無しさん (2014-01-16 21 48 11) 名前 コメント コメント(私的なことや感想はこちら) FA絡みのスライドの他にも同時絡みでスライドさせられる事も多い。 -- 名無しさん (2014-10-04 21 16 31) 名前 コメント
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§プロローグ 桜の樹の下には屍体が埋まっている。 そんな陰鬱なフレーズが頭をよぎるのは、私の精神状態が今どん底にあるからだ。 新しい教室。新しいクラスメイト。新しい一年。 今私がいる本校舎三階の西翼は、去年まで、いや先月までの私だったら足を踏み入れる のに躊躇していた場所だ。 そこは私たち下級生の力の及ばない区画だったから。 けれど三年生の教室があるこの一画は、ついに私たちの領土となった。 これからの一年間、私たちはここで残りの学園生活を過ごすのだ。 トイレの前、リノリウムの床が歳月の重みに耐えかねて少しへこんでいる。 廊下の天井を見上げると、どうやって刻印したものか、上履きの足跡が沢山ついていた。 壁際に並んだロッカーには、とうに卒業した誰かと誰かの相合い傘が落書きされてあった。 窓から外を眺めやれば、いままでより少し高くなった視界のもと、植え込みの桜並木が 二分葉桜の梢を広げていた。 桜の樹の下には屍体が埋まっている。 よく聞くフレーズだけど、もととなった言葉があるのだろうか。 去年の秋頃、それがなんとなく気になって、みゆきに訊いたことがある。 確かそう、参考書を買いに一緒に神田まででかけたときのことだ。 肌寒くなってきた陽射しに“春もこのくらいの気温かな”と思い、さらに傍らを歩く 桜色した友人から、そのフレーズを連想したのだった、 「それでしたら、恐らく梶井基次郎の『桜の樹の下には』という小説からきているのだと 思います」 いつもながら打てば響くように返ってくる答えに、感心して問い返す。 「梶井基次郎?…えーと、確か『檸檬』の作者だったっけ? そんなに昔からあるフレーズ じゃないのね」 「ええ、そうですね。確か戦前の作家だったと思います。『檸檬』とこの『桜の樹の下には』 以外にはこれといって知られていないのですけどね。新潮文庫から刊行されている『檸檬』 にはどちらも収録されていたはずですよ」 感心する想いがいずれ畏怖と尊敬の念に変わっていくのも、いつもながらのこと。 医学部志望のみゆきにとっては決して得意分野ではないはずの、国文学にしてからこの 知識量だ。 本当にこの友人の頭の中はどうなっているのだろう。 溢れんばかりの知識欲と、それを十全に満たす記憶力。物事の本質を能く見極める思考の 深さと誠実さを持っていて、けれどそれらをひけらかすこともなく、一人黙々と知の迷宮を 彷徨っていく。 きっと本当の智慧というのはこういうものなのだろう。 “それってどういう作品なの?” そう聞いてみようと思ったけれど、やめておいた。 立て板に水のごとく詳細な文芸批評が飛びだしてきたら、それこそ本気でへこんでしまい そうだったから。 私にとって、彼女はいつだって“知の巨人”なのだ。 ――もっとも、他にも自分のモノと比較してついへこんでしまう“巨大なモノ”も、 彼女は色々と持っていたけれども。 「――らぎぃー」 去年の夏、一緒に海にいったとき階間見た、その“巨大なモノ”を思い浮かべていた。 ああ、あれは本当に巨きかったな。まるで水蜜桃のように膨らんだ二つの―― 「ひいらぎってばー!」 「ボインッ!」 呼ばれると同時にツインテールを思いっきり後ろに引っ張られて、不意を衝かれた私は 思わず考えていたことを口にだしてしまった。 慌てて口元に手をあてて黙りこんだけれど、時すでに遅し。後ろの席の日下部は会心の ニヤニヤ笑いを浮かべていた。 「ボーイーンー? なんだいきなりボインって!? きょぬーになるイメージトレーニング でもしてたかぁ?」 「う、うるさいうるさーい! なんだよ、いきなり髪の毛引っ張るなよ! なんの用だよ!」 云い訳のしようもなくて、ただひたすら勢いに任せて怒鳴る。顔が熱くなっていくのを 感じていた。 よりによって日下部に聞かれてしまうなんて。今後半年はこのネタでからかわれそうだ。 「ニッヒッヒ、ってか、早く体育館いかないと入学式始まっちゃうぜ?」 「……あ」 云われて見回してみれば、教室に残っている生徒はもうまばらになっていた。ボーッと しているうちにいつのまにかHRも終わっていたのだ。 「柊ちゃんが先生の話ちゃんと聞いてないなんて、珍しいね」 峰岸が私たちのところへやってきて云う。 「うん……ちょっとボーッとしちゃってたわ。暖かくなってきたせいかしらね」 そういって頬を掻く私を、二人は困ったような顔でみていた。 わかっている。自分がこんなにも落ち込んでいる理由は自分が一番わかっているし、 二人がそれを知っていることもわかっている。 けれどどうしようもなかった。 心配してくれている二人には悪いと思うし感謝もするけれど、どうしても今すぐふっきって 明るく振る舞うことはできなかった。 体育館にいくと、こちらより早くHRが終わっていたらしく、B組の面々はすでに整列していた。 やっぱり今年も一番前だったこなたが、腰に手を当てて“前習え”をしている後ろ姿が見えた。 近づいていくと、列の後ろの方にいたみゆきが私に気づいたようだ。微笑みながら手を 振ってくるみゆきに、私も少し微笑んで、力なく手を振り返す。 つかさもいつも通り真ん中くらい。ほとんど身長が同じ私たちは、こうやってクラスごとに 別れて身長順に整列すると、いつも同じくらいの位置になる。 何事か真剣に考えこんでいる様子のつかさだったけれど、どうせ頭の中はいつも通り、 ふわふわとしたなんだかわからないもので満たされているに決まっている。 隣に立ってちょんちょんと袖を引っ張ると、案の定ピクッとして「エリンギ星人!」と 小さく叫んだ。なにを考えてたんだ一体。 「あ、お姉ちゃん、エヘヘ、きてたんだ」 そういってこちらを向いて照れるつかさに、 「なんだよエリンギ星人って、どこに棲んでるんだそれ」 と呆れながら云った。 「あ、あうぅ、今の、誰にも喋らないでね……」 喋るか。同類と思われたくない。 もっとも、ボインと叫んだ私もあまり人のことは云えなかったけれど。 そんなことをしているうちに、生徒会長が入学式の開式を告げる。その言を聞いて、 みんなは静まりかえった。 こういうとき、さすが進学校というべきか、うちの学校には無駄に騒いだり規律を破ったり しようとする輩はいない。 ちらと眺めると、こなたも律儀に正面を向いてじっとしていた。 式もつつがなく進行し、生徒会長が新一年生の入場を告げると、みなで振り返って拍手をする。 そのとき私に目を留めたこなたが、青竹色の瞳を見開いて微笑んでくれたのが、少し嬉しかった。 万雷の拍手の中、新一年生が入場してくる。 紅梅色の髪をした小さな子――ゆたかちゃんがちょこちょこと歩いてきたとき、こなたが いるあたりから一際大きな拍手の音が聞こえてきた。 交換留学生らしき金髪の子が、珍しそうにきょろきょろしながら歩いてくる。 コバルトグリーンの髪をしたスレンダーな子の凜とした佇まいには、思わず目を見張った。 眼鏡を掛けた少しオタクっぽい女の子が、入り口の段差につまずいて転び掛けたときは、 少しはらはらした。 やがて新入生も整列し、代表が壇にのぼって入学生宣誓を始める。 “長く続いた厳しい冬も終わりを告げ、ようやく春の息吹が感じられる季節となりました。 私たち一同はこれより陵桜学園の生徒として――” こうして陵桜学園は新一年生を迎えた。 また新しい一年が始まる。 私たちは、そう、三年生となったのだ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 4 s e a s o n s 春 / そ し て 桜 色 の ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §1 桜咲く出会いの季節というのに、私がこんなにも落ちこんで自己憐憫の隘路を彷徨って いるのは、云うまでもなく今年のクラス割りのせいだ。 初めて神に祈ったのに。同じクラスにしてくれと、あんなに神に縋ったのに。 私はまた、みんなと別のクラスになってしまった。 祈りでは足りないとでもいうのだろうか。これ以上神はなにを捧げろというのか。水垢離か、 五体投地礼か、それとも愛する我が子イサクか。 もっとも、不可知論者の私は、神の実在をまるで信じていなかった。 冷静に考えれば、やはりまず信じることが先決なのだろう。 けれど――神社の娘がなんて罰当たりな、と思うかもしれないが――どう考えても論理的に 実在を証明することができない以上、神はいないと仮定するのが科学的態度というものだ。 あるとき私がそう云うと、こなたは“かがみはホント現実主義者だよね。そんな肩肘張って ないで、いたらいいなー? くらいじゃだめなの?”なんて云った。 人の気も知らないで、あいつはのほほんと云いやがった。 初詣のとき、私がどれだけの思いでいないと知っている神に祈ったかも知らないくせに。 あのときこなたが云った“かがみには別のクラスでいてもらわないとね”という一言が、 どれだけ私の胸をえぐったかも知らないくせに。 いっそ全部素直にぶち撒けてしまいたい。そう思うときがある。 こなたといるとどれだけ楽しいか。 みゆきのことをどれだけ尊敬しているか。 つかさがいるだけでどれだけ心から安心できるか。 みんなといてどれだけ幸せに思うか。 みんなのことをどれだけ誇りに思っているか。 こなたにそれを云ったら、あいつはどういう反応をするだろう。 素直に照れるだろうか、それとも“かがみがツンデレじゃなくなったー”といって悲しむ だろうか。 あり得ないと思いつつも、後者の反応をされることが怖くて、私はいつも口をつぐんでしまう。 云えないで溜めこんだそんな想いが、私の中でどんどん膨れあがっていく。そしてふとした 拍子に顔を覗かせたそれを、こなたにつつかれては悶絶するのが常だった。 結局のところ、全て見透かされているのかもしれない。 あの小悪魔みたいな女の子に。 桜の樹の下には屍体が埋まっている。 その屍体とは、そうして云えないまま埋葬された私の言葉たちかもしれない。 そんなことを考える。 秋にみゆきから教えてもらったあと、くだんの小説を読んでみた。 私にも知識を蓄えたいという欲求は人並み以上にある。法曹界を目指す人間として、 やはり負けっぱなしは悔しい。 『桜の樹の下には』は文庫本にして見開き2ページ分の、短い掌編だった。 語り部は、余りにも美しい桜をみて、まるで美しさの代償を求めるように、その根本に 屍体を夢想する。 美しいものをただ美しいものとして享受できない、その裏になにかの秘密がないと安心 できない語り部のひねこびた心性は、基次郎自身のものだったろうか。 であるならば、それは素直になれない私自身の、可愛いといわれても喜べない私自身の、 ひねくれた心性と同じものだ。 そう思ったら、無性に一人で桜が見たくなった。 溺れるほど大量の桜を。 ひねくれた私がひねこびた桜に浸れば、まっすぐ前を向けるようになるかもしれない。 そんな非合理的な、文芸的レトリックに過ぎないことを、本気で考えたわけではない。 結局のところ、一人でなにか凄いものを見て、頭を冷やしたかったのだろう。 「つかさー、ちょっとでかけてくるね」 台所でなにやらお菓子作りをしていたつかさに声をかける。 「え……こんな時間に? どこいくの?」 もう九時も回ろうかという時刻。確かに未成年の女子が一人ででかけるような時間帯では なかった。 「ん……ちょっとね、心配しなくてもすぐ戻るわよ」 「そ、そう……。でも本当に気をつけてね。……えっとね、帰ってくるまで寝ないで 待ってるからね」 「あら? なにか話したいことでもあるの?」 「ううん、そういうわけじゃないけど……ただ、寝る前にちゃんとお休み云いたいなって 思っちゃって……」 「なぁにー? また甘えんぼ病かぁ? ふふ、わかったよ、なるべく早く戻るからね」 まだ真剣な顔つきで私をみつめるつかさに手を振って外にでた。 もしかして、私が世を儚んで自殺をするとでも思ったのかもしれない。つかさにも 大きな心配をかけていることを思って、ちくりと胸が痛む。 権現道の桜堤までは自転車で十五分。 四月の夜気はまだ冷たいけれど、その裏に温もりの気配を感じさせてどこか優しかった。 犬の遠吠え。街灯に影を映すコウモリの羽ばたき。見下ろすような弦月に掛かる雲の グラデーション。 夜に包まれて、私はペダルを漕ぐ。 桜の名所として名高い権現道だけれど、すでに盛りが過ぎたこともあり、さすがに月曜の 夜ともなればそれほどの人だかりでもなかった。 地元の人らしきおじさんおばさんが、酔漢と化して銅鑼声を張りあげていた。カップルや 家族連れの姿もちらほらと見える。 けれどそれも花見の喧噪というにはほど遠い。緑の葉の混じった桜並木を歩いていくうち、 たまにぽっかりと人通りが途絶えることもあった。 そんなとき、私は桜の美しさと恐ろしさを痛感する。 低い枝振りの桜が梢を広げると、空がすっぽりと覆われて世界が桜色で満たされる。 普段はその下に酔漢や見物客がいるから楽しく思えるのだけれど、ただ一人この世界に 閉じこめられるとなるとたまらない。 どこまでいっても涯もなく続く桜色は、すでに異界の光景だった。 人里ならばまだいいのだろう。これが人跡未踏の山奥に、誰にもみられることなくただ ひっそりとその世界を繰り広げてるさまを想像すると、なるほど基次郎のおののきもわかる 気がした。 そう考えたとき、以前にも同じような感覚を覚えたことを思い出した。 デジャブだろうか。いや、そうとも思えない。 そのときは今ほど独りでいることの不安感は感じていなかった気がする。いつも隣に いる私の暖かい半身――つかさがいたような。 そこまで思考を辿ったところで、唐突に思い出した。 さーっと桜吹雪が舞って、私の心をあのころの私の元へ運んでいく。 あれはそう、二年前の春の出来事。 一年生だった。 今日入学した子たちみたいに、まっさらだった私たち。 期待と不安ばかりを胸に抱きながら学校に通い―― そうして、こなたと初めて出会った、あのころのこと。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『4seasons』 春/そして桜色の(第二話)へ続く コメントフォーム 名前 コメント 伝説の始まり -- 名無しさん (2008-08-17 01 26 40) 文が綺麗だなあ…… -- 名無しさん (2007-11-26 00 32 37) ヤバいくらいGJ! -- 名無し (2007-11-25 23 13 18)
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【登録タグ CD CDF ROYCD 全国配信 神楽美咲CD】 前作 本作 次作 Distance to the sky Four seasons Doomsday ROY 神楽美咲 Ciel Syo 同人 配信 発売 2011年6月25日 2011年7月6日 価格 ¥630(税込) ¥600 / 1曲¥150 サークル ROY - レーベル - KarenT iTunes Storeで購入する CD紹介 ROYによる2ndミニアルバム。 各季節をイメージした楽曲をそれぞれ初音ミク、巡音ルカ、がくっぽいど、メグッポイドの4つのVOCALOIDの歌唱で収録している。 ジャケットイラストは都氏。 歌ってみたアルバム『Scream of the soul Ⅱ』と同時リリース。 とらのあな・アニメイトで委託販売が行われている。KarenTレーベルよりダウンロード販売も行われている。 曲目 Ocean wind (feat. がくっぽいど) 枯葉舞う季節 (feat. 巡音ルカ) White missing (feat. 初音ミク) Cherry blossom (feat. メグッポイド がくっぽいど) リンク 作者ブログ とらのあな アニメイト KarenT:「Four seasons」 コメント 名前 コメント